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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)218号 判決

第二一八号事件控訴人 丸山商事株式会社

右代表者代表取締役 丸山貞幸

右訴訟代理人弁護士 桑田勝利

第二三五号事件控訴人 東陽不動産株式会社

右代表者代表取締役 丸山幸夫

右訴訟代理人弁護士 高橋龍彦

右両事件被控訴人 福や不動産こと 苗代一男

右訴訟代理人弁護士 杉山朝之進

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

(1)  控訴人丸山商事株式会社は、被控訴人に対し、金一〇五万円及びこれに対する昭和四二年一二月一一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  控訴人東陽不動産株式会社は、被控訴人に対し、金一五万円及びこれに対する昭和四二年一二月一一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(3)  被控訴人の控訴人らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一は控訴人らの連帯負担とし、その余は被控訴人の負担とする。

三  この判決は、金員の支払を命ずる部分に限り、仮に執行することができる。

事実

一  控訴人丸山商事株式会社(以下控訴人丸山商事という。)代理人は、「原判決中控訴人丸山商事に関する部分を取消す。被控訴人の控訴人丸山商事に対する請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、控訴人東陽不動産株式会社(以下控訴人東陽不動産という。)代理人は、「原判決中控訴人東陽不動産に関する部分を取消す。被控訴人の控訴人東陽不動産に対する請求を棄却する。」との判決を求め、被控訴人代理人は、各控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにそれを引用する。

(訂正)≪省略≫

(控訴人らの主張)

(一)  本件(一)の土地(原判決添付物件目録記載(一)の1ないし3の土地)の売買価格は金八四五〇万円であり、本件(二)の土地(同物件目録記載(二)の土地)の売買価格は金五五〇万円であって、右合計金額は金九〇〇〇万円である。被控訴人は、本件(一)、(二)の各土地(以下一括する場合には、本件土地という。)を合計金九五〇〇万円で売買した旨主張するが、右金額のうち金五〇〇万円は、本件土地上で、丸山貞幸(以下貞幸という。)が個人で駐車場の経営をし、また、丸山八郎(以下八郎という。)がプレハブ造りの建物でスポンジの工場を経営していたところから、買主である合資会社津久井商事(以下津久井商事という。)が右両名に対し本件土地の明渡に伴う補償料として支払ったものであって、控訴人らの手に入っていないものである。

(二)  被控訴人は東京都知事の告示に定める最高額の報酬の請求をしているが、右は宅地建物取引業者が請求しうる上限を示したものであって、実際は、顧客に対するサービスという点からその報酬の額は右最高額よりも安く定められているのが通常である。本件の場合には、本件(一)、(二)の土地を一括して売買するものとして、売主である控訴人らが当初申し出た売り値の額は金一億円であったのに対し、買主側の当初の買い値の額は金九〇〇〇万円であったが、本件土地の売買契約においては、結局、その代金額は金九〇〇〇万円と定められたのであるから、被控訴人の努力は売主側にとってなんらの利益をもたらさなかったものというべきである。なお、別紙一の「被控訴人の仲介活動」に対する控訴人らの認否及び主張は、別紙二の「控訴人らの認否及び主張」のとおりである。

(被控訴人の主張)

(一) 控訴人らの主張(一)に掲げる金五〇〇万円は、裏契約金であって、売買代金の一部である。右金五〇〇万円の内金一〇〇万円は、形式上、津久井商事が八郎から買い取るプレハブ造りの建物の代金とされていたが、実際には、八郎は同建物を本件土地上から他に搬出してその所有権を保持した。また、控訴人らは、本件土地売買契約が成立する前後に、右金五〇〇万円を控訴人ら主張の補償金等に充当するとの話題を全く提示していなかった。

(二) 被控訴人請求の報酬額は、控訴人丸山商事が控訴人東陽不動産に対して金二五〇万五〇〇〇円を報酬として支払った旨の控訴人らの主張(その真偽はさておき)に比し、過大ではない。控訴人丸山商事所有の本件(一)の土地の売買の成立について、控訴人東陽不動産は全く関与していなかったが、被控訴人は、別紙一の「被控訴人の仲介活動」記載のとおり、異常に困難な作業をしたのである。

(当審における新たな証拠)≪省略≫

理由

一  被控訴人が東京都知事の登録を受けた宅地建物取引業者であることは、当事者間に争いがない。

二  控訴人丸山商事が、昭和四二年一一月二一日、津久井商事に対し、本件(一)の土地を売渡したことは、被控訴人と控訴人丸山商事との間において争いがない。

右土地の売買の媒介者及び代金額の点について争いがあるので、判断する。≪証拠省略≫によれば、次の各事実を認めることができる。

1  控訴人東陽不動産は、昭和三六年ころ、控訴人丸山商事から分離独立したその不動産部門と訴外東京建物株式会社とが合体したうえ設立された株式会社である。その代表取締役である丸山幸夫(以下幸夫という。)は、控訴人丸山商事の代表取締役である貞幸の長男で控訴人丸山商事の専務取締役をも兼ねており、控訴人丸山商事所有の不動産の管理及び売却等は、すべて控訴人東陽不動産を通じてされていた。なお、貞幸は老令のため、幸夫及びその妻の光枝が実質上控訴人丸山商事の会社経営の衝にあたっていた。

2  控訴人両会社は、昭和三六年ころ、マーケット経営のため本件土地を買入れ、一時、同土地上に東陽名店会館若しくは仲宿ストアーを建設することを計画したが、採算が合いそうもなかったため右計画を中止し、昭和三九年ころ、本件土地の売却を決定し、控訴人丸山商事は、控訴人東陽不動産に対し、自己所有の本件(一)の土地の売却について媒介の委託をし、控訴人東陽不動産は、同控訴人所有の本件(二)の土地と合わせて、三・三平方メートル(一坪)当り金二五万円の価格で売却することを表明し、同控訴人名義で新聞広告をし、また東京都内の不動産業者約三〇軒に案内状を発送した。しかし、二、三の引合いはあったものの、結局、昭和四二年夏まで本件土地は売れないで残っていた。

3  一方、被控訴人は、同四二年初めころ、津久井敬一から津久井商事の店舗用地として三〇〇ないし四〇〇坪の土地購入の媒介の委託を受け、方方を探索した結果、面積、立地条件の点でほぼ津久井敬一の意図に合致する本件土地を発見し、その所有者名を近所の人に尋ねたところ、貞幸である旨告知されたので、同年六月初めころ貞幸宅を訪れて、同人に対し、本件土地売却の意思の有無を尋ねたところ、良い客があれば売りたいということであったので、さらに、その仲介の申込をしたところ、貞幸はこれを承諾した。ただし、被控訴人は、その当時、本件土地の所有者は貞幸個人であると思い込み、同土地が控訴人両会社の所有であることを知らなかった。

4  その後、被控訴人は、貞幸の指示によって幸夫にも会い、また、買主側の代表者としての津久井敬一とともに幸夫夫婦や雨宮国蔵(控訴人両会社の監査役)らと会い、本件土地の売買価額について協議した。右売買価額については、当初、売主側は金一億円、買主側は金九〇〇〇万円と申し出た(この点は当事者間に争いがない。)。

5  被控訴人は、本件土地の正確な権利関係を知るため、同年八月下旬本件土地の登記簿謄本の交付を受けたところ、初めて本件(一)の土地は控訴人丸山商事の所有であり、本件(二)の土地は控訴人東陽不動産の所有であることを知った。この点についての被控訴人の問合せに対し、幸夫は、「同族会社だから一つの土地として売買すればよい。値段も一括して決めてよい。」と答えた。

6  本件土地の買主側である津久井商事及び津久井敬一は、本件土地の買受交渉等について、被控訴人にほぼ一任していたため、被控訴人は、その父苗代憲次とともに、主として、売主側の代表と目される幸夫及び貞幸とたびたび折衝し、本件土地の売買価額に関する意見の調整に努めたところ、同年九月初めに、本件土地全部を一括して金九五〇〇万円で売買契約が成立する見込となったので、右契約の調印を同月一八日に行なうこととした。

7  ところが、同月一六日に至り、被控訴人からの問合せに対し、幸夫は、事情が急変したので、売買を中止したい旨返答した。その急変したというのは、本件土地上では、貞幸が駐車場を経営し、貞幸の子で幸夫の弟にあたる八郎が、貞幸所有のプレハブ造りの建物において、スポンジ工場を経営していたところ、本件土地の売買に伴い本件土地を明渡さなければならず、その補償費として、貞幸及び八郎が、本件土地の売渡代金のうちから金三〇〇〇万円を要求したのに対し、幸夫は、本件土地は控訴人両会社の所有であり、会社経営上そのように多額の金銭を支出することはできないと反対したことから、親子、兄弟間の感情の対立が生じ、それが、本件土地の売買の可否にまで波及したということであった。

8  そこで、被控訴人は、同年九月中旬ころから同年一一月中旬ころまで、毎週三回位の割合で、貞幸、幸夫、八郎方に行き、その間の調整に努め、また、その間必要に応じて買主側とも折衝した結果、同年一一月二一日、大要次の内容の売買契約、すなわち、控訴人丸山商事は津久井商事に対して本件(一)の土地を金八四五〇万円で売渡し(控訴人丸山商事が津久井商事に対して本件(一)の土地を同日売渡した事実は、被控訴人と控訴人丸山商事との間で争いがない。)、控訴人東陽不動産は津久井敬一に対して本件(二)の土地を金五五〇万円で売渡す(この点は、被控訴人と控訴人東陽不動産との間で争いがない。)という売買契約が成立した。

9  本件土地に関する右売買契約とは別個に、津久井商事は、同月二一日貞幸に対して金二〇〇万円を、昭和四三年一月一七日貞幸及び八郎に対して金二〇〇万円を、同日貞幸に対して金一〇〇万円をそれぞれ支払っているが、右合計金五〇〇万円は、本件土地上で貞幸が経営していた駐車場及び八郎が経営していたスポンジ工場に対する本件土地明渡に伴う補償金並びに本件土地上にある貞幸所有のプレハブ造りの建物に対する買取代金として支払われたものである。なお、津久井商事は、右プレハブ造りの建物を取りこわしたうえ、これは八郎に贈与した。

10  本件土地に関する右売買契約が成立する二、三日前に、幸夫は被控訴人に対して本件(二)の土地の売買に関する被控訴人の報酬として、被控訴人が控訴人丸山商事に対し報酬の支払を請求しないことを条件として金五〇万円を支払う旨述べたが、被控訴人はこれに対して承諾の意思を表示しなかった。もっとも、幸夫は、被控訴人が右五〇万円の報酬額を承諾したものと誤信し、後に被控訴人が報酬を請求するため来訪した際、あらかじめ用意していた金五〇万円の小切手を被控訴人に渡そうとしたが、被控訴人はこれを受取らなかった。

以上の事実を認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

そして、右認定事実を総合考察すれば、控訴人丸山商事は、被控訴人に対して、おそくとも昭和四二年八月末までに、本件(一)の土地の売買の媒介の委託をし、その結果、同控訴人は、同年一一月二一日、津久井商事に対し、右土地を代金八四五〇万円で売渡したものと認めるのが相当である。

三  被控訴人が、昭和四二年八月末ころ、控訴人東陽不動産から、同控訴人所有の本件(二)の土地の売渡しについて媒介の委託を受け、被控訴人の媒介により、同控訴人が同年一一月二一日訴外津久井敬一に対して本件(二)の土地を代金五五〇万円で売渡したことは、被控訴人と控訴人東陽不動産との間において争いがない。

四  そこで、被控訴人の報酬請求権の有無及び報酬の額について検討する。

被控訴人が宅地建物取引業者であることは前記のとおりであるから、被控訴人は、商法第五〇二条第一一号、第四条第一項の規定により、商人であるというべきであるが、被控訴人が控訴人らと津久井商事又は津久井敬一との間に本件土地を目的物とする売買契約を成立させるべく、控訴人らのため本件土地の代金額等について折衝したことは前記認定のとおりであるから、商法第五一二条の規定により、被控訴人は控訴人らに対し、相当の報酬を請求することができるものというべきである。

控訴人丸山商事は、被控訴人との間に、控訴人丸山商事が支払うべき報酬は控訴人東陽不動産が取得し、被控訴人は控訴人丸山商事に対し報酬の支払を請求しないとの合意が成立した旨主張するが、右主張に添う≪証拠省略≫は、前記二の10において認定した事実及び≪証拠省略≫に照してたやすく信用することができず、そのほかに、右主張事実を認めるに足りる的確な証拠がない。したがって、控訴人丸山商事の右主張は採用することができない。

次に、被控訴人の受けるべき報酬の額であるが、控訴人らと被控訴人との間に報酬額に関する特約のあったことを認めるに足りる証拠がない。そして、右特約がない場合には、不動産取引業者は、宅地建物取引業法第一七条第一項(改正前、現第四六条第一項)、昭和四〇年四月建設省告示第一一七四号(廃止前)に基づく東京都知事の告示によって計算された最高額を当然に請求しうるものではなく、依頼者の受けた利益、仲介の難易、宅地建物取引業者の払った努力の程度及び費用等諸般の事情を考慮し、右最高限度額の範囲内で、社会的、客観的に相当と認められる金額のみを請求しうるものと解するのが相当である。そして、被控訴人が控訴人丸山商事から本件(一)の土地の売却の媒介の委託を受けるに至った経緯及びその後の被控訴人の右土地売買のための活動に関する前記認定事実によれば、被控訴人は右土地の売買について売主側買主側双方の媒介者というよりむしろ買主側の代理人に近い立場で媒介活動に従事したものと認めるのが相当であること、被控訴人が本件土地売買契約成立までの過程において貞幸、八郎、幸夫との間の感情の対立を調整する活動をしたことは前記認定のとおりであるが、右活動の成果に関する前記認定事実によれば、控訴人らは右活動により直接の利益を受けていないと認めるのが相当であること、本件(一)の土地の媒介者は被控訴人及び控訴人東陽不動産の両者であること、本件(二)の土地の売買の媒介者は被控訴人だけであること、≪証拠省略≫によれば被控訴人は買主側から金二二五万円の報酬を得ていることが認められること、本件土地の売買代金額決定までの経緯に関する前記認定事実によれば、その額は買主側の主張に近い線で決定されていること、被控訴人が控訴人丸山商事に対し報酬の支払を請求しないことを条件として、控訴人東陽不動産は被控訴人に対し本件(二)の土地に対する媒介の報酬として金五〇万円を提示したことその他本件に現われた諸般の事情を斟酌すれば、被控訴人が本件土地の売買について請求しうる報酬額は、控訴人丸山商事に対しては金一〇五万円、控訴人東陽不動産に対しては金一五万円の限度にとどまるものとするのが相当である。

五  叙上の次第であるから、被控訴人に対し、控訴人丸山商事は金一〇五万円、控訴人東陽不動産は金一五万円、及び右各金員に対する本件売買契約成立の日以後である昭和四二年一二月一一日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務を負うものというべきである。したがって、被控訴人の本訴請求は、右の限度で、理由があるから、これを認容し、その余の部分は失当であるから、これを棄却すべきである。されば、本訴請求の全部を認容した原判決は、右限度を越えて認容した部分につき不当であるから、これを主文第一(1)ないし(3)記載のとおり変更し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条、第九二条、第九三条第一項但書を適用し(なお、原判決の仮執行の宣言は、本判決主文第三項の限度で有効に存続している。)、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 枡田文郎 裁判官 福間佐昭 日野原昌)

〈以下省略〉

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